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北海道大学出版会 blog
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冨士田 裕子 編著 判型: B5 並製 頁数: 272 ISBN: 978-4-8329-8214-7 Cコード: C3045 発行日: 2014-11-25 ●本書の特徴 北海道の北部,サロベツ川下流域に広がるサロベツ湿原は,低地の湿原として日本有数の規模,そこに広がる高層湿原は日本最大を誇る。さらに湿原と海岸の間には,数列にわたるトドマツを主体とした砂丘林と砂丘間湿地,180あまりの湖沼群が,南北30km以上にわたって続き,他に類をみない景観をつくりだしている。しかしながら面積1万4千haにものぼった湿原は,戦後の国策により急激に開発が進み,その面積は3割にまで縮小した。1974年,サロベツ湿原と稚咲内砂丘林帯湖沼群のかなりの面積が国立公園に指定されたが,周辺での草地開発はさらに続いた。環境の変化は止まらず,湿原面積の減少に加え,近年ではササ群落の拡大,沼の消失や埋積,泥炭地盤の沈下など,生態系の劣化が顕著になっている。本書は,サロベツ湿原と稚咲内湖沼群の保全や自然再生に必要不可欠な,生態系の構造やメカニズム,生物情報など,最新の科学データを収集したプロジェクト研究の集大成である。第Ⅰ部はサロベツ湿原の生態系の構造と機能について,地形,形成史と植生史,植生,水文環境,微気象と物質循環,泥炭の堆積状況やその理化学性,GIS解析から明らかになった湿原の広域特性などについて解説。第Ⅱ部ではこれまで総合的な研究がなされず,その実態が謎に包まれていた稚咲内砂丘林帯湖沼群の形成史,植物相や植生,水文循環を解説。第Ⅲ部は湿原と砂丘林帯湖沼群をめぐる開発とそれに伴う環境変化,劣化の進行する生態系の保全や自然再生・モニタリングに関する課題を紹介。本書はサロベツ湿原と稚咲内砂丘林帯湖沼群を対象としているが,生態学,植生学,水文学,環境科学等の研究者,大学院生,自然再生を進める団体関係者,さらに湿地の環境とその保全に関心を持つ人には必読の書である。 ●目次 口 絵 はじめに I サロベツ湿原 第1章 湿原の地形と湿原形成 1. 広域地質 2. 湿原の地形と湿原形成 湿原の形成 3. 湿原植生の変遷と古環境 植生変遷の要因 4. 湿原の微地形 湿原の微地形 / サロベツ湿原で見られる微地形 / 地形図に表された微地形 第2章 湿原植生 1. サロベツ湿原域の植物相 植物相の概要 / 植物相の変遷 / ほかの湿原植物相との比較 2. 湿原植生とその変化 サロベツの湿原植生の特徴 / サロベツ湿原の植物群落 / 群落の変遷 3. 湿原におけるササの分布 フェノロジー / サイズと立地環境 / ササの分布拡大 第3章 湿原の水文 1. 湿地溝と埋没河川 湿地溝55/埋没河川 2. 湿原の水収支 水収支に関係する要因 / サロベツ湿原の水収支の推定 / 土壌水分と地下水位変動からの 蒸発散量の推定 3. 高位泥炭地の水流動モデル 観測サイトと使用データ / 泥炭の性質 / 泥炭の性質に配慮した水流動モデル 4. 湿原地下水の水質 湿原域の地下水質 / ハンノキ域の拡大と水質環境 第4章 湿原の微気象とフラックス 1. 地表のエネルギー収支と蒸発散 地表のエネルギー収支 / 気象と熱フラックスの観測 / エネルギー収支の特徴 / 蒸発散を 制限する要因 / ミズゴケ区とササ区における蒸発散の比較 2. 湿原の微気象特性 湿原の温度環境 / 乾燥化が助長する低温 / ゼンテイカ花芽の霜害 3. 温室効果ガスと炭素循環 泥炭土壌から排出されるメタンフラックス / 湿原生態系と大気との間のCO2交換 / 地下 水の浸透にともなって流出する溶存有機態炭素 4. 光合成有効放射 第5章 泥炭 1. 泥炭の層厚分布 泥炭層圧分布の地図化 / 泥炭層厚分布図と現地実測値との比較 2. 泥炭の性質と堆積構造 泥炭の理化学的性質 / 泥炭の乾燥密度から見た堆積特性 / 植物遺体および粘土から見た 堆積特性 3. 泥炭の間隙構造と水分保持 土壌の3相と泥炭の特異性 / 泥炭の有効間隙率と排水路の影響 4. 高位泥炭地形成モデル(Carexモデル) 微地形の変化 / 高位泥炭地形成モデルの概要 / 湿原植生の生長関数 / モデルの適用例 / カレックスモデルの可能性 5. サロベツ湿原の湿地溝 高位泥炭地の湿地溝 / 湿地溝の分布と形状 / 湿地溝の成因 / カレックスモデルによる成 因の検証 / サロベツ湿原の湿地溝の成因 6. 瞳沼の浮島 浮島の移動 / 浮島の浮沈 第6章 湿原の広域特性 1. 地形と流路 地形の分布特性 / 広域的な水文環境 2. 植生分布 衛星画像を使った植生区分 / サロベツの植生分布 3. 土壌の分布 衛星画像を使ってどのように推定するか / 後方散乱係数と泥炭土壌との関係 / サロベツ 湿原における土壌分布 4. 植物群落のフェノロジー デジタルカメラによる自動撮影 / サロベツ湿原の植生フェノロジー 5. 炭素蓄積量 形成過程の類型区分 / 湿原全体の炭素蓄積量の推定 / 炭素蓄積速度の推定 第7章 湿原のエゾシカ 1. エゾシカの分布拡大 ニホンジカと湿原 / 上サロベツ湿原におけるシカ道の分布 / サロベツ湿原におけるエゾ シカの影響 II 稚咲内砂丘林帯湖沼群 第1章 砂丘林帯の地形と形成 1. 砂丘林帯の地形と形成 砂丘列の地形と植生 2. 地質層序と砂丘列の形成 砂丘堆積物 / 堤間湿地堆積物 / 湖沼堆積物 / 砂丘帯の形成 3. 砂丘林帯の植生形成 第2章 砂丘林帯の植物 1. 砂丘林帯の植物相 植物相の概要 / ほかの調査との比較 2. 砂丘間湿地・湖沼群の植物群落 砂丘間湿地・湖沼群の植物群落 / 砂丘間湿地・湖沼群の植生の特徴 第3章 砂丘林帯の水文 1. 砂丘林帯の水文循環 湖沼群への地下水流入の有無 / 水素・酸素安定同位体比から見た湖沼における蒸発の影響 / 湖沼の形状と蒸発の関係 / 地下水流動系における湖沼群の位置づけ 2. 湖沼群における熱収支と水収支 熱収支法による水収支の推定 / 熱収支 / 水収支 / まとめ 3. 湖沼群の形状と水位変動 空中写真から読み取れる湖沼群の特徴 / 湖岸地形と水位の推測 / 湖岸地形からわかること 4. 砂丘林帯の湖沼群と湿原群の水質 稚咲内砂丘林帯の湖沼水および湿原地下水の水質と周囲環境 / 水質から見た稚咲内湖沼の 生態的特徴 / 湖沼群への人為的影響 第4章 砂丘林帯の動物 1. 大型動物 稚咲内砂丘林帯を利用するヒグマ / 稚咲内砂丘林帯におけるエゾシカ / 増えすぎたエゾ シカの影響と今後の対策 III 開発,環境変化と自然再生 第1章 地域の開発と環境変化 1. 土地利用の変化 湿原面積の減少 / 湿原の開発の経緯 / サロベツ地域の土地利用の変遷 2. 河川改修と排水路の開削 戦前の排水改良 / 戦後の事業 / 天塩川下流区間の改修 3. 瞳沼の形成史 地域概要と瞳沼調査 / 瞳沼と浮島の形状 / 瞳沼と浮島の形成史 / 形成史のまとめ 4. 泥炭地盤沈下 地下水位と地盤高の相互作用 / 広域的な地盤沈下の状況 / 地盤沈下と地下水位の関係 5. 湿原におけるササ群落の拡大 地下水位の連続測定による解析 / 広域的視点からの拡大要因推定 6. 稚咲内砂丘林帯湖沼群の変化 各撮影年代から読み取れる湖沼の特徴 / 水位変化の地域的特徴 / 湖沼の形状の特徴 / 湖 沼群の経年変化から考えられること 第2章 上サロベツ自然再生事業 1. 自然再生事業の経緯 自然再生推進法の施行 / 上サロベツ自然再生協議会の発足 2. 事業の目標 上サロベツ湿原の自然再生の課題と目標 / 農業と地域振興に係る目標と課題 3. 事業の内容と実施状況 緩衝帯の設置 / 落合沼の再生 第3章 モニタリング 1. モニタリングの重要性 モニタリングとは / モニタリングのあり方 2. サロベツでの今後のモニタリング サロベツにおけるモニタリングの重要性 / 地下水位の変動評価 / 高分解能衛星画像によ る植生変化追跡 / モニタリングシステムのあり方 参考・引用文献 おわりに 事項索引 地名索引 植物名・群集名・群落名索引 ●著者紹介 冨士田 裕子 1986年,東北大学大学院理学研究科博士後期課程修了 2010年,第13回尾瀬賞(財団法人尾瀬保護財団)。 北海道の湿原目録の作成と湿原生態系の解明および保全に関する研究。 現在,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授 理学博士(東北大学)
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