商品説明
髙橋正道著
判型: A5 上製
頁数: 526
ISBN: 978-4-8329-8131-7
Cコード: C3045
発行日: 2006-02-25
●本書の特徴
「被子植物の起源と初期進化」という研究テーマは,これまで「Abominable mystery=忌まわしき謎」とされ,進化論で有名なダーウィンでさえ敬遠してきた。その主な理由は,植物化石のデータが少なく,被子植物の「失われた鎖」を見つけることは容易ではなかったことによるものである。しかし最近,この難問に対して非常に興味深い解決の糸口を見出され,研究は新しい展開を見せている。その1つは,分子遺伝学的手法による研究成果である。もう1つの糸口は,白亜紀の地層から3次元的構造が保存されたままの状態で次々と発見されている被子植物の花,果実や種子などの小型化石の研究である。今まさに,白亜紀に生育していた被子植物の「失われた鎖」がよみがえろうとしているのである。
本書では,陸上植物の進化の歴史をふまえて,被子植物の起源と初期進化について私を含めた最新の研究成果をもとに花粉や植物化石という視点から解き明かされつつある白亜紀における被子植物始原群の進化の過程を紹介している。
●目次
はじめに
序 論
1.古地理と古環境変遷
2.現生の陸上植物
3.被子植物
4.古植物学と花粉学
5.古植物学
6.花粉学
第1章 陸上植物の出現
1.古生代オルドビス紀—デボン紀の地球
2.陸上植物の出現
3.コケ植物化石
4.「ライニー植物化石」
5.初期の研究
6.ライニー植物に関する新たな発見と新たな問題
7.ライニーチャートの配偶体化石
8.最古の陸上植物化石Cooksonia
9.陸上植物の初期進化
10.陸上植物の初期系統群
11.Kennrick & Craneによる分類形質基準
12.最古の種子化石
13.陸上植物の系統関係について議論は続いている
第2章 森林の成立と裸子植物の出現
1.石炭紀の地球
2.陸上植物の多様化
3.石炭紀の古植生
4.初期の木本性植物
5.前裸子植物
6.シダ種子植物
7.コルダイテス Cordaites
8.ペルム紀の地球環境
9.ペルム紀の植生
10.ベネチテス Bennettitales
11.グロソプテリス Glossopteris
12. ギガントプテリス目Gigantopteridales
13.ソテツ類,イチョウ類
第3章 裸子植物の台頭
1.三畳紀—ジュラ紀にかけての地球環境
2.三畳紀—ジュラ紀にかけての古植生
3.カイトニア Caytoniales
4.球果類
5.三畳紀やジュラ紀に「被子植物」の最古の化石?
6.熱帯高地起源説
7.Eucommiiditesの正体
8.Bruce Cornetの研究
9.Archaefructus
第4章 白亜紀の被子植物の出現と多様化
1.白亜紀の地球環境
2.花粉化石からみた白亜紀における被子植物の出現状況
第5章 被子植物の最古の小型化石
1.ベリアシアン期—オーテリビアン期の古植生
2.最古の被子植物花粉化石
3.バレミアン期の古植生
4.アプチアン期に低緯度地域で始まった被子植物の多様化
5.ポルトガルの後期バレミアン期—前期アプチアン期の被子植物の小型化石
6.原始的被子植物群の小型化石
7.原始的双子葉類の植物化石
8.「最古の単子葉群の花化石」とされている小型化石
9.真正双子葉群の出現
10.系統的位置づけが困難な化石
11.西ポルトガルから発見された花粉化石
12.バレミアン期—アプチアン期の植物化石群の特徴
第6章 被子植物の主要始原群の分化
1.アルビアン期の古植生
2.アルビアン期の被子植物の花粉化石
3.アルビアン期の被子植物の葉化石
4.アルビアン期の被子植物の小型化石
5.ツゲ科に関連のある雌雄異花の花化石
6.スズカケノキ目の花序化石
7.分類学的位置の不明な花化石
8.果実化石
9.ブラジルから発見された前期白亜紀の被子植物
10.アルビアン期の植物化石群の特徴
第7章 初期進化段階の被子植物
1.セノマニアン期の古植生
2.センリョウ科と推定される果実化石
3.シキミ科の種子化石
4.クスノキ科型の花化石
5.モクレン型の雄蕊化石
6.ユリノキ属に類似している種子化石
7.真正双子葉群
8.バラ群の花の印象化石
9.セノマニアン期の植物化石群の特徴
第8章 白亜紀の被子植物の台頭
1.チューロニアン期の古植生
2.Old Crossman Clay Pit地層から発見された植物化石の特徴
3.スイレン科の花化石
4.センリョウ科の雄蕊の化石
5.クスノキ科の花と花粉の化石
6.モクレン型の果実と花の化石
7.単子葉群ホンゴウソウ科の花化石
8.ユキノシタ目に近縁な花化石
9.フウチョウソウ目に近縁な花化石
10.ツツジ目に近縁な花および果実の化石
11.フクギ科の花化石
12.シダ植物・ウラジロ科の小型化石
13.チューロニアン期の植物化石群の特徴
第9章 日本から発見された白亜紀の被子植物
1.コニアシアン期の古植生
2.福島県広野町から発見された上北迫植物化石群
3.クスノキ科の花化石
5.ミズキ科の果実化石
6.シクンシ科の花化石
7.所属不明の花化石
8.福島県の双葉層群から発見されたその他の被子植物の化石
9.久慈層群から発見されたミズニラ目とイワヒバ目の大胞子化石
10.コニアシアン期の植物化石群の特徴
第10章 後期白亜紀に多様化した被子植物
1.サントニアン期—マストリヒチアン期の古植生
2.地層の特徴
3.センリョウ科の花化石
4.クスノキ科の花化石
5.モクレン科の種子化石
6.スズカケノキ科の花化石
7.マンサク目の花化石
8.マンサク目に近縁な花化石Archamamelis
9.ユキノシタ目に近縁な花化石
10.Normapolles型花粉をもつ果実化石
11.ブナ目の花化石
12.カタバミ目クノニア科の花化石
13.シクンシ科の花化石
14.ツツジ目の植物化石
15.コケ植物化石
16.所属不明の植物化石
17.サントニアン期—マストリヒシアン期の被子植物の特徴
第11章 新生代の被子植物
1.暁新世—中期始新世
2.中期始新世—漸新世
3.中新世—鮮新世
4.「三紀周極要素起源説」の崩壊
5.新生代第三紀の植物化石
6.第四紀の植物
7.新生代被子植物の特徴
終 論
1.被子植物が起源した時期
2.被子植物が起源した地域
3.被子植物の「まわしき謎」はどこまで解明されたか?
4.被子植物始原群の出現
5.被子植物始原群の形質の特徴と進化傾向
6.小さい花をつけていた被子植物始原群
7.虫媒花と風媒花
8.被子植物始原群の果実と分散様式
9.センリョウ科とクスノキ科の小型化石の意義
10.Esgueiriaが物語ること
11.真正双子葉群の出現の時期
12.被子植物の起源と初期進化
補論1 種子植物の化石資料
1.裸子植物群 Gymnosperms
2.原始的被子植物群(ANITA群)
3.モクレン群 Magnoliids
4.単子葉群 Monocots
5.ツユクサ群 Commelinids
6.真正双子葉群 Eudicots
7.真正双子葉基幹群 Core Eudicots
8.バラ群 Rosids
9.真正バラ綱I群 Eurosids I
10.真正バラ綱II群 Eurosids II
11.キク群 Asterds
12.真正キク綱I群 Euasterids I
13.真正キク綱II群 Euasterids II
補論2 被子植物の新分類体系
原始的植物群
Magnoliids モクレン群
Core Eudicots 真正双子葉基幹群
Rosids バラ群
Eurosids I 真正バラ綱I群
Eurosids II 真正バラ綱II群
Asterds キク群
Euasterids I 真正キク綱I群
Euasterids II 真正キク綱II群
資料1 地質年代表
資料2 白亜紀の小型化石の産出場所と年代
文 献
図版の版権使用許可に関する謝辞
おわりに
索 引
●著者紹介
髙橋 正道
1950年 山形県に生まれる
1979年 東北大学大学院理学研究科博士課程修了
現 在 新潟大学理学部教授 理学博士
専 門 植物系統分類学・花粉形態学・古植物学
日本植物学会・日本植物分類学会・アメリカ植物学会所属
【主論文】
Takahashi, M., Crane, P. R., and Manchester, S. R. 2002. Hironoia fusiformis gen. et sp. nov.; a cornalean fruit from the Kamikitaba locality (Upper Cretaceous, Lower Coniacian) in northeastern Japan. J. Plant Res. 115: 463−473. Takahashi, M., P. S. Herendeen and P. R. Crane. 2001. Lauraceous fossil flower from the Kamikitaba locality (Lower Coniacian; Upper Cretaceous) in northeastern Japan. J. Plant Res. 114: 429−434. などがある。