商品説明
上田 宏編著
判型: A5 並製
頁数: 208
ISBN: 978-4-8329-8218-5
Cコード: C3045
発行日: 2015-02-25
●本書の特徴
三陸沿岸では,古来サケ(シロザケ・サクラマス)漁業が盛んに行われてきた。2011年3月の東日本大震災により,三陸沿岸のシロザケ漁業は甚大な被害を受け,今後数年間は東北地方太平洋沿岸のシロザケ資源が激減することが予測されている。さらに,三陸沿岸のシロザケ資源は震災前から減少しており,その原因究明および回帰率の向上が望まれている。また,三陸沿岸ではサクラマスの人工孵化放流も行われていたが,サクラマス親魚の回帰率が低迷した状況が続いており,回帰率の向上が望まれている。
(独)科学技術振興機構(JST)は,被災した東日本太平洋岸沿岸地域が未来型産業のモデル地域として生まれ変わるために,水産加工サプライチェーンを我が国が誇れる産業として蘇生すべく,サプライチェーンの各ステージにイノベーションを導入し,時代と社会の潮流に見合った産業と雇用を創出していくことを目的とし,「水産加工サプライチェーン復興に向けた革新的基盤技術の創出」に関する基盤研究を公募した。本書は,三陸地方のサケ(シロザケ・サクラマス)親魚の回帰率を向上させることが,三陸復興のシンボルとなると考え,「産学共創の場」における地元サケ関係者からの要望を加味して「東北地方の高回帰性サケ創出プロジェクト」を提案した研究の成果である。
本書では,岩手県のサケ漁業関係者および様々な分野のサケ研究者を中心に,三陸沿岸のサケ漁業および高回帰性サケを創出するために行っている種々の技術開発・試験研究について紹介する。
●目次
はじめに………山内晧平
序 章 日本の太平洋サケ………上田 宏
1.日本の太平洋サケ
2.シロザケとサクラマスの人工ふ化放流技術
3.三陸地方のシロザケとサクラマス
[引用・参考文献]
第I部 三陸地方のシロザケ・サクラマス漁業
第1章 岩手県のシロザケ漁業の歴史と現状………清水勇一
1.東日本大震災前のシロザケ増殖事業と資源状況
2.東日本大震災によるふ化場の被災状況
3.東日本大震災によるふ化場の復旧状況
4.シロザケ資源回復への課題
第2章 三陸地方のサクラマス漁業の歴史と現状………高橋憲明
1.サクラマスの生活史と人工ふ化放流
2.サクラマス漁業の歴史と現状
3.サクラマス資源の維持・造成に向けて
[引用・参考文献]
第II部 陸上養殖技術
第3章 シロザケ・サクラマスの陸上養殖の現状および環境負荷軽減型閉鎖循環式陸上養殖設備の
開発………小出展久・畑山 誠・三坂尚行
1.シロザケの陸上養殖の現状
2.サクラマス陸上養殖の現状
3.ヒメマス陸上養殖の現状
4.ギンザケ陸上養殖の現状
5.サケ科魚類に発生する魚病について
6.北海道で発生しているサケ科魚類の感染症
7.現場での防疫について
8.閉鎖循環式陸上養殖設備における濾過材の検討
ウニ殻濾過材の検討 / ウニ殻濾過材を用いた小型水槽での試験
9.閉鎖循環式陸上養殖設備の設計
閉鎖循環養殖設備でのウニ殻濾過材の使用 / ウニ殻濾過材の性能
[引用・参考文献]
第4章 機能性飼料およびマイクロバブルによる試験研究………森山俊介
1.サケ科魚類の成長を制御する内分泌系のホルモン
2.魚類の成長ホルモンの水産増養殖への応用に向けた研究
3.シロザケの未利用資源を高度有効活用することによる水産増養殖技術の開発
4.マイクロバブルおよびナノバブル技術の水産増養殖への応用に向けた研究
5.今後の研究の展開
[引用・参考文献]
第III部 回帰性に関する生理・生態・遺伝学
第5章 サケの母川回帰性に関する生理学………上田 宏
1.はじめに
2.内分泌学的研究
母川記銘時の変化 / 母川回帰時の変化
3.神経生理学解析
4.生理活性物質投与による母川記銘能への影響
5.新たなシロザケのふ化放流技術の提案
6.おわりに
[引用・参考文献]
第6章 三陸沿岸のシロザケ個体群の回復に向けて………帰山雅秀・秦 玉雪
1.サケ類バイオマス動態
2.わが国シロザケの個体群動態
3.1980年代の三陸沿岸におけるシロザケ幼魚の沖合移動パターン
4.2012—2013年の三陸沿岸におけるシロザケの沖合移動パターン
5.三陸沿岸域におけるシロザケ幼魚の安定同位体比
[引用・参考文献]
第7章 回帰サケ類の遺伝学的分析………塚越英晴・阿部周一
1.シロザケの遺伝特性
ミトコンドリアDNAから見たシロザケの遺伝的集団構造 / マイクロサテライトおよびほ
かのDNAマーカーから見たシロザケの遺伝的集団構造 / 三陸岩手におけるシロザケの遺
伝特性の解明へ向けて
2.サクラマスの遺伝特性
DNAマーカーによるサクラマスの集団構造 / 三陸岩手のサクラマスの遺伝特性解明へ向
けて
3.三陸岩手のサケ類の資源増殖と保存へ向けて——遺伝学的見地から
[引用・参考文献]
第IV部 加工・流通に関する調査研究
第8章 岩手県のサケ産業と地域漁業——東日本大震災後の大型定置経営の復興過程
………………田村直司・天野通子・山尾政博
1.岩手県のサケ漁業と定置網漁業
岩手県におけるサケ漁業 / サケ大型定置経営について / 漁協自営を中心とした定置漁業
2.東日本大震災による定置漁業の復興状況
被災状況 / 定置漁業経営の復興 / 種苗生産施設の復興 / サケ販売流通対策の実施
3.漁協自営の大型定置漁業の操業と特徴
綾里漁協の大型定置漁業の復旧概況 / 釜石湾漁協の大型定置漁業の復旧概況
4.サケ産業再興に向けた視点
[引用・参考文献]
第9章 三陸サケ産業のクラスター的発展の可能性——水産加工業の多様性と復興への課題
………………山尾政博・天野通子・田村直司
1.日本のサケ・マス需要と三陸サケ産業
日本市場のサケ・マス需要の変化 / 三陸水産加工業を支えてきたサケ / 製品形態から見
たパターン
2.小規模零細加工企業の多様な存在
前浜資源としてのサケ / 高次加工を手がけるC社
3.中規模以上の水産加工業の復興
4つの企業の被災状況と復興のあり方 / 新しい操業形態を模索するD社 / サケ加工の位
置づけを強化したE社 / 総合的なサケ加工企業の動き / サケの広域集荷と東アジアとの
分業関係
3.複線的な三陸サケ加工業の復興過程
水産加工業の復興状況 / 三陸サケ産業のクラスター的発展に向けて
[参考文献]
おわりに………長濱嘉孝
索 引
●著者紹介
上田 宏
1951年生まれ
北海道大学大学院水産学研究科博士課程単位取得退学
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・大学院環境科学院教授
水産学博士・医学博士
産卵回帰性魚類(サケ・ニホンウナギ・トラフグ)を用いて,産卵回帰機構に関する魚類生理学的研究,および産卵場・成育場の環境保全に関する環境生物学的研究を行っている。産卵回帰性魚類をモデルとして,最新の動物行動学・生殖生理学・感覚神経生理学・分子生物学的手法を用いて,産卵回帰性魚類はどのように回遊し産卵場に回帰するのか,またどのように産卵場・成育場の環境を保全することができるかを解明し,研究成果を社会に還元することを目指している。
『サケ学入門』(分担執筆,北海道大学出版会,2009),『サケ学大全』(分担執筆,北海道大学出版会,2013),『Physiology and Ecolpgy of Fish Migration』(Ueda H and Tsukamoto K ed., CRC Press, 2013)など
序章・第5章執筆
阿部 周一
岩手大学三陸復興推進機構三陸水産研究センター特任教授・北海道大学名誉教授 理学博士
第7章執筆
天野 通子
原稿提出時:愛媛大学社会連携推進機構南予水産研究センター助教
現在:広島大学大学院生物圏科学研究科助教 博士(学術)
第8・9章執筆
帰山 雅秀
北海道大学国際本部特任教授・北海道大学名誉教授 水産学博士
第6章執筆
秦 玉雪
北海道大学大学院農学研究院特別研究員 博士(水産科学)
第6章執筆
小出 展久
北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場専門研究員
第3章執筆
清水 勇一
原稿提出時:岩手県水産技術センター漁業資源部主任専門研究員
現在:岩手県農林水産部水産振興課主任
第1章執筆
高橋 憲明
岩手県内水面水産技術センター主任専門研究員
第2章執筆
田村 直司
岩手大学研究交流部三陸復興支援課産学官連携専門職員
第8・9章執筆
塚越 英晴
岩手大学三陸復興推進機構三陸水産研究センター特任研究員 博士(水産科学)
第7章執筆
長濱 嘉孝
愛媛大学社会連携推進機構教授・愛媛大学南予水産研究センター教授・岩手大学客員教授 水産学博士
おわりに執筆
畑山 誠
北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場研究主幹
第3章執筆
三坂 尚行
北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場主査
第3章執筆
森山 俊介
北里大学海洋生命科学部教授 水産学博士
第4章執筆
山内 晧平
愛媛大学社会連携推進機構教授・愛媛大学南予水産研究センター長・岩手大学客員教授 水産学博士
はじめに執筆
山尾 政博
広島大学大学院生物圏科学研究科教授 農学博士
第8・9章執筆