商品説明
パスポート学
陳 天璽・大西広之・小森宏美・佐々木てる 編著
定価:3,520円(本体価格3,200円+税)
判型:A5 並製
頁数:292
ISBN:978-4-8329-6823-3
Cコード:C3036
発行日:2016-10-25
●本書の特徴
本邦初、「パスポート」についてとことん追究する書。いまや身近な存在となったパスポートであるが、実は非常に多面的な意味や役割をもつものであり、各章ごとにさまざまな視点から解く。
第1章では世界各地域のパスポートを豊富な写真と共に解説し、その多様さ、多機能さの背景となった各国の事情も紹介する。第2章では日本のパスポートの歴史的変遷を、日本の国境の変化にも触れながらたどる。第3章では船員手帳、母子手帳、在留カード、再入国許可書など旅券以外の身分証明書をみる。第4章ではパスポートの有効性を規定する法律やパスポート制度の成立の歴史を示し、出入国審査の現状と今後や、日常生活に溶け込んだパスポートについても考察する。第5章ではパスポートと国籍や戸籍との関係、難民や移民の問題とのかかわりについて考える。第6章ではパスポートと人々の関係の多重性・不均衡・ねじれなどについて、各人各様の物語からみていく。終章の座談会では研究対象としてのパスポートの魅力について、将来的な課題も含め、編者の自由な語りで読者を惹きつける。
日本から出国する人の数は、2015年には1600万人に上った。これらの出国者はみな、パスポートないしそれに代わるものを使って国外に出て、帰国時にも同様の手続きを行う。それはもはや日常的な風景かもしれないが、なぜそうした手続きが必要なのか、そして国を出入りすることにはどんな意味があるのか。本書はこの根本的な問いに答え、パスポートについて体系的に考える手がかりを提供する。
●目次
はじめに
〔第1部 パスポートを視る〕
第1章 世界のパスポート
1.1 ヨーロッパのパスポート
1.1.1 EU(ヨーロッパ)とドイツのパスポート
1.1.2 イギリスのパスポート
1.1.3 フランスのパスポート
1.1.4 南欧(スペイン,ポルトガル)のパスポート
1.1.5 旧ソ連のパスポート
1.1.6 旧ユーゴスラビアのパスポート
1.2 アメリカのパスポート
1.2.1 アメリカ合衆国のパスポート
1.2.2 カナダのパスポート
1.2.3 ペルーのパスポート
1.3 アフリカのパスポート
1.3.1 アフリカ人移民のパスポート
1.4 中近東のパスポート
1.4.1 アラブ諸国のパスポート
1.5 アジアのパスポート
1.5.1 韓国と北朝鮮のパスポート
1.5.2 香港のパスポート
1.5.3 タイのパスポート
1.5.4 ミャンマーのパスポート
1.5.5 マレーシアのパスポート
1.5.6 ネパールのパスポート
1.5.7 インドのアイデンティティ・サーティフィケート(IC)
第2章 日本のパスポート
2.1 通行手形
2.1.1 通行手形とは
2.1.2 往来手形
2.1.3 関所手形
2.1.4 管理システムとしての手形
2.1.5 移動と本人確認
2.2 偽文書と身分証明
2.2.1 職能民の身分証明書
2.2.2 さまざまな職の由来と権利
2.2.3 偽文書を介した人の関係
2.3 居留地制度下における外国人の内地旅行免状:国内旅行のパスポート
2.3.1 外国人居留地と遊歩区域
2.3.2 内地旅行制度の確立
2.3.3 内地旅行の条件緩和
2.3.4 外国人居留地と内地旅行免状の終焉
2.4 戦前のパスポート
2.4.1 賞状型のパスポート
2.4.2 手帳型のパスポート
2.4.3 移民と旅券
2.4.4 戦後の旅券
2.5 本土から切り離された地域とパスポート:奄美・小笠原・沖縄
2.5.1 行政分離された地域とはどこか
2.5.2 行政分離された地域の日本復帰
2.5.3 特別地域と本土との往来制限と密航
2.5.4 特別地域への渡航のための「身分証明書」
2.5.5 琉球から本土への渡航手続き
2.5.6 琉球住民の法的立場の確立と渡航手続きの整備
2.6 日本が発行する現在のパスポート
2.6.1 日本国旅券
2.6.2 日本国政府の発行する旅券に代わる証明書
2.6.3 北方領土との渡航文書
第3章 移動と身分証明書
3.1 越境とさまざまな身分証明書
3.1.1 越境する人々と身分証明書
3.1.2 身分証明書に対する信頼とその役割
3.1.3 身分関係および居住関係の証明
3.1.4 身分証明書をめぐる最近の動向
3.1.5 身分証明書の今後
3.2 出生届と母子健康手帳
3.2.1 出生届と子どもの国籍
3.2.2 妊娠・出産と非正規滞在
3.2.3 妊産婦手帳の誕生と歴史
3.3 外国人登録と在留カード
3.3.1 日本に暮らす外国人:その登録と管理
3.3.2 外国人登録制度
3.3.3 新しい在留管理制度
3.4 もうひとつのパスポート「乗員手帳」
3.4.1 船員手帳
3.4.2 国際航空乗員証明書等
3.4.3 乗員手帳に準ずる文書
【コラム】日本国「再入国許可書」と私
〔第2部 パスポートを考える〕
第4章 パスポートの概念・理論
4.1 パスポートとは? 国籍とは?
4.1.1 パスポートを規定する法律
4.1.2 国籍を規定する法律
4.2 パスポートの歴史
4.2.1 革命とパスポート
4.2.2 パスポートコントロール緩和の要因
4.2.3 20世紀のパスポート
4.2.4 複数国籍時代のパスポート
4.3 パスポートの機能と入管政策
4.3.1 出入国審査とパスポート
4.3.2 パスポートの国籍証明機能
4.3.3 国籍を証明できないパスポート
4.3.4 パスポートの未来
【コラム】パスポートの表象
第5章 パスポートをめぐる政治
5.1 パスポートとアイデンティティ
5.1.1 アイデンティティとアイデンティフィケーション
5.1.2 ある華人の生活史
5.1.3 制度とアイデンティティ
5.1.4 国籍変更とアイデンティフィケーション
5.1.5 アイデンティティの政治性
5.2 複数国籍,無国籍,無戸籍
5.2.1 個人と国家を法的につなげる国籍,戸籍
5.2.2 血統主義と生地主義
5.2.3 複数国籍
5.2.4 無戸籍と無国籍
5.2.5 国籍・戸籍というシステムの有効性
5.3 海外渡航の自由とパスポート
5.3.1 パスポートをめぐる法制度
5.3.2 海外渡航の自由への制約・今昔
5.4 難民
5.4.1 「難民」の定義とその数
5.4.2 難民条約以前の難民に与えられたパスポートとビザ
5.4.3 難民条約における保護:越境の条件化,難民の身分証明書
5.4.4 入国管理の厳格化と越境避難の困難化
5.5 移民
5.5.1 ヨーロッパでの2015年移民危機
5.5.2 移民/難民とパスポート
5.5.3 移民をめぐるメソ構造
5.5.4 歓迎される移民・歓迎されない移民
第6章 人とパスポートの関係
6.1 日本人移民とパスポート
6.1.1 パスポートと移民の歴史
6.1.2 移住地の「万葉集」にみるパスポート
6.2 中国帰国者と身分証明
6.2.1 中国帰国者の移動と身分証明
6.2.2 ライフストーリーにみる身分証明とアイデンティティ
6.3 帰化・国籍取得
6.3.1 「帰化」とは何か
6.3.2 帰化を申請する人々の想い
6.3.3 日本における帰化の現状
6.4 アスリートにみる国籍選択の背景:トンガ人の事例を中心に
6.4.1 ラグビーブームと問われる選手の国籍
6.4.2 初代トンガ人ラグビー留学生の来日の経緯
6.4.3 日本居住者としてのトンガ人ラグビー選手
6.4.4 ラグビー選手の帰化の動機
【コラム】あなたはだれ?:パスポートが覆う,そのむこうの景色
座談会 パスポート学の射程
参考文献
索引
●著者紹介 ※[ ]は執筆者担当箇所
陳 天璽(ちん てんじ/Chen Tien-Shi)[4章コラム][5.2]
早稲田大学国際学術院国際教養学部教授,博士(国際政治経済学)
〈おもな編著書・論文等〉『無国籍』(新潮社,2005年),『忘れられた人々:日本の「無国籍」者』(編著,明石書店,2010年),『東アジアのディアスポラ』(駒井洋監修,小林知子との共編,明石書店,2011年),「日本における無国籍者の類型」(『移民政策研究』第5号,2013年) など
大西 広之(おおにし ひろゆき)[2.6][3.1][3.4][4.3]
中京大学社会科学研究所特任研究員,北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究・共同研究員,元法務省大阪入国管理局入国審査官,博士(法学)
〈おもな編著書・論文等〉『行政の民間化の可能性と限界に関する研究』(三恵社,2014年) など
小森 宏美(こもり ひろみ)[1.1.5][4.2]
早稲田大学教育・総合科学学術院教授
〈おもな編著書・論文等〉『エストニアの政治と歴史認識』(三元社,2009年),『エストニアを知るための59章』(編著,明石書店,2012年),『変動期ヨーロッパの社会科教育』(編著,学文社,2016年) など
佐々木 てる(ささき てる)[2.1][5.1]
青森公立大学経営経済学部准教授,博士(社会学)
〈おもな編著書・論文等〉「在日コリアンとシティズンシップ:権利と国籍を中心に」(『移民政策研究』第6号,2014年),『マルチ・エスニック・ジャパニーズ:○○系日本人の変革力』(編著,駒井洋監修,明石書店,2016年) など
明石 純一(あかし じゅんいち)[3.3]
筑波大学人文社会系准教授
李 仁子(い いんじゃ)[1.5.1]
東北大学大学院教育学研究科准教授
石井 香世子(いしい かよこ)[1.5.3]
立教大学社会学部准教授
石井 洋子(いしい ようこ)[1.3]
聖心女子大学文学部准教授
伊藤 泉美(いとう いずみ)[2.3]
横浜開港資料館主任調査研究員
小山 雅徳(おやま まさのり)[1.1.6]
同志社大学総合政策科学研究科博士課程
郭 潔蓉(かく いよ)[6.3]
東京未来大学モチベーション行動科学部教授
川村 千鶴子(かわむら ちずこ)[3.2]
大東文化大学環境創造学部教授
グェン ティ・ホン ハウ(谷川[たにかわ]ハウ)[6章コラム]
NHKエンタープライズ
久保山 亮(くぼやま りょう)[1.1.1]
専修大学人間科学部社会学科非常勤講師
小林 真生(こばやし まさお)[6.4]
大阪経済法科大学客員研究員
近藤 敦(こんどう あつし)[4.1]
名城大学法学部教授
髙佐 智美(たかさ ともみ)[1.2.1][1.2.2]
青山学院大学法学部教授
高村 加珠恵(たかむら かずえ)[1.5.5]
マギル大学国際学研究所専任講師
館田 晶子(たてだ あきこ)[1.1.3]
北海学園大学法学部教授
丁 章(ちょん ぢゃん)[3章コラム]
詩人,和寧文化社代表
中牧 弘允(なかまき ひろちか)[6.1]
国立民族学博物館名誉教授
錦田 愛子(にしきだ あいこ)[1.4][5.5]
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授
西脇 靖洋(にしわき やすひろ)[1.1.4]
山口県立大学国際文化学部准教授
付 月(ふう ゆえ)[5.4]
茨城大学人文学部社会科学科准教授
ボンコット・ナパアンポーン[1.5.3]
国連難民高等弁務官事務所東南アジア地域事務所法務部保護官
松田 睦彦(まつだ むつひこ)[2.2]
国立歴史民俗博物館准教授
三谷 純子(みたに じゅんこ)[1.5.7]
東京大学大学院総合文化研究科博士課程
南 真木人(みなみ まきと)[1.5.6]
国立民族学博物館准教授
南 誠(みなみ まこと)(梁雪江)[6.2]
長崎大学多文化社会学部准教授
宮内 紀子(みやうち のりこ)[1.1.2]
九州産業大学基礎教育センター講師
村上 勇介(むらかみ ゆうすけ)[1.2.3]
京都大学地域研究統合情報センター准教授
柳下 宙子(やぎした ひろこ)[2.4]
慶應義塾大学非常勤講師
柳井 健一(やない けんいち)[5.3]
関西学院大学法学部教授
山上 博信(やまがみ ひろのぶ)[2.5]
国境地域研究センター事務局,名古屋こども専門学校専任講師
山田 美和(やまだ みわ)[1.5.4]
アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ長
林 泉忠(りん せんちゅう)[1.5.2]
台湾中央研究院近代史研究所
(第3刷〈2017-02-25〉発行時の情報です)