商品説明
瀬川 高央著
判型: A5 上製
頁数: 520
ISBN: 978-4-8329-6818-9
Cコード: C3031
発行日: 2016-02-25
●本書の特徴
米ソ間の中距離核戦力(INF)削減交渉に対し,中曽根内閣がとった外交政策や交渉妥結の方向が規定されるまでの過程を明らかにする。首脳外交の裏側で,首相以外の閣僚や外交当局者がアジア部のSS-20問題についてどのように考え,対応を検討したのか。日米間の核軍縮に関する生産的協議を可能にさせた当時の国際情勢や時代背景はどのようなものであったのか。一次資料の解析と当事者証言の分析に基づいて,当時の外務省と防衛庁の問題認識を含め,日本政府のSS-20に関する政策形成過程を検討し,その全体像を描き出す。本書は,米国が日本に提供し続ける拡大抑止の信頼性をどのように維持していくのかという戦略問題を考察する上でも,重要な歴史研究であるといえる。
●目次
略語一覧
序 章 本書の課題と構成
本書の主題 / 日本の論壇におけるINF問題 / INF交渉に関する戦略的考察 / INF全
廃と日本の安全保障 / INF削減交渉の外交史的研究 / 本書の課題と構成
第1章 中距離核戦力(INF)削減交渉の開始
1 アジア部のINF問題
SS—20の実戦配備 / アジア部SS—20配備の背景 / NATOの二重決定 / INF削減交
渉とSTARTの開始 / 「森の中の散歩案」 / 政治的兵器としてのSS—20 / 鈴木首
相の認識 / 櫻内外相の立場 / 鈴木内閣期──事務レベルの対応 / 歴代首相の問題認
識 / 防衛庁の認識
2 中曽根内閣によるINF問題への対応
中曽根内閣の成立 / アンドロポフ構想──SS—20の極東移転案 / ルンスNATO事務
総長との協議 / 西欧諸国との連携 / ゼロ・オプションをめぐる認識相違 / 暫定協定
に関する日米協議 / 外務省による対応策の検討 / 外務省の「試論」 / 政治=事務レ
ベル間の認識相違──「極東移転」と「極東既配備」 / レーガン大統領の交渉戦略 /
中曽根=レーガン書簡──極東移転の否定 / 日米INF協議と暫定協定案公表 / グロム
イコ外相の回答 / 西側の結束に向けて / ソ連の対日圧力戦術──ハートマン駐ソ連米
国大使の見解
3 ウィリアムズバーグ・サミット──西側安全保障の不可分
村田経済局長によるサミット基本戦略 / サミット個別会談──西側結束の立証 / ミッ
テラン大統領との初会談 / 晩餐会での激論 / 再浮上したINF暫定協定案 / 東西外交
の展開 / 東側結束の切り崩しを試みる日本 / 防衛庁における認識の変化 / 大韓航空
機撃墜事件──国連安保理における攻防 / INF交渉の継続 / 日独「東京声明」 / 米
加首脳の訪日──グローバル・ゼロの確認 / 日中軍事情報交換の実質化 / 1983年の
軍縮外交の意義
第2章 米ソ軍備管理交渉の中断と再開
1 米ソ軍備管理交渉の停滞
INF交渉の中断 / 交渉再開努力の失敗 / 米ソの思惑 / 東西欧州の関心 / 中曽根内閣
の側面協力 / 日米間の対ソ共同歩調 / チェルネンコ書記長就任と安倍外相訪ソ
2 西側の対ソ共同歩調
中曽根首相訪中とソ連の反応 / レーガン大統領訪中と米中戦略対話 / 日欧の対ソ共同
歩調 / ロンドン・サミット / サミットの政治色をめぐって / ロンドン民主主義宣言 /
包括的核実験禁止のための提案──ステップ・バイ・ステップ方式 / 日米政策企画協議
3 米ソ関係改善の模索
宇宙兵器禁止交渉 / 衛星攻撃兵器(ASAT)相互完全廃棄の狙い / ASAT禁止交渉に
的を絞るソ連 / ホワイトハウスの「条件付き受諾」 / 宇宙兵器禁止交渉に対するレー
ガン政権内の不一致 / ウィーン交渉の挫折 / ソ連のロサンゼルス五輪ボイコット /
レーガン=グロムイコ会談 / レーガン大統領再選 / 新デタント到来への期待 / 西側
結束の信頼性強化とソ連の孤立
第3章 戦略防衛構想(SDI)と日本
1 米ソ軍備管理交渉の再開
レーガン大統領再選後の課題設定 / ロサンゼルスでの日米首脳会談──SDI研究参加
への布石 / 日本の軍縮外交に対する米側の見方 / 日欧間の軍縮問題協議 / ゴルバチ
ョフ書記長就任 / 中曽根=ゴルバチョフ会談
2 SDI推進による西側結束の補完
西欧INF配備の進展 / 協力合意なきSDI研究への参加 / SDI研究への「理解」を貫
く日本 / 技術供与を求める米国 / ソ連の不安 / 日・西独間の認識一致 / SDI五原則 /
レーガン=ミッテラン会談 / ボン・サミット政治宣言 / 先送りされたSDI協力合意 /
ミッテラン大統領の不満 / SDI研究「理解」の本質 / SDI実験の加速 / 米議会の
SDI予算承認と対日協力要請 / 西側諸国の動向──ユーレカとの両立
3 核・宇宙交渉(NST)開始後の米ソ対立
暗礁に乗り上げたNST / NSTを阻むSDI / レーガン=ゴルバチョフ書簡──防御兵器
の概念をめぐって / 応酬の原因 / シェワルナゼ外相の就任──ソ連の外交理念の変化
4 ジュネーブ米ソ首脳会談への道のり
日仏首脳の対ソ観 / 日仏間の対米認識 / 第一次SDI調査団の米国派遣 / 強気姿勢の
中の苦悶 / 第五回日ソ事務レベル協議 / ソ連提案に対するレーガン大統領の反応 /
ニューヨーク・サミット / ジュネーブ米ソ首脳会談
5 西側諸国のSDI研究参加
英国・西独のSDI参加決定 / 第二次および第三次SDI調査団の米国派遣 / SDI関係
閣僚会議 / SDI研究参加方針の決定 / 日米SDI協定交渉 / SDI研究参加の政治的意味
第4章 米ソ妥結案を拒否した日本
●著者紹介
瀬川 高央
1977年 札幌市生まれ
2007年 北海道大学大学院経済学研究科博士後期課程修了 博士(経済学)
現 在 北海道大学公共政策学研究センター研究員
専 攻 外交史,安全保障論,インテリジェンス
おもな編著書・論文等 『首相秘書官が語る中曽根外交の舞台裏』(長谷川和年著,服部龍二ほ
かとの共編,朝日新聞出版,2014年),『中曽根康弘が語る戦後日本外交』(中曽根
康弘著,中島琢磨ほかとの共編,新潮社,2012年),「ソ連の平和攻勢に対する日本
外務省の情報分析と対応─1970年代の「アジア集団安全保障構想」を事例に─」
(『年報公共政策学』第10号, 2016年)(近刊),「日本のSDI研究参加をめぐる
政策決定過程:1985─1987」(『年報公共政策学』第9号,2015年)など。