商品説明
遠藤 乾・板橋 拓己 編著
判型: A5 並製
頁数: 360
ISBN: 978-4-8329-6749-6
Cコード: C3031
発行日: 2011-06-25
●本書の特徴
ヨーロッパ統合史は,いま最もスリリングな学問領域の一つである。公開された史料に基づく実証的研究が日進月歩の勢いで積み重ねられていく一方,それまでの歴史叙述を「脱神話化」していく作業も進められている。本書は、そうした実証的・先端的研究を担う若手の研究者を集め,ヨーロッパ統合史研究のあり方を根本的に問い直し,その地平をさらに広げることを企図するものである。
本書のタイトル『複数のヨーロッパ』は,単にヨーロッパ像の多様性を示すものではない。『複数のヨーロッパ』とは、従来の,しばしば単線的で閉鎖的であったヨーロッパ統合史研究をいったん解体し,時系列的・空間的・アプローチ的に開放された新しい統合史研究を打ち立てるために選び取られた,きわめて挑発的な視座である。本書は,時代的には戦間期から1970年代までの長い期間を扱い,空間的には域内/域外、国際/国内を往還しつつ,政治・社会・経済・文化など多様な次元において,無数のアクターとそれらが担う複数の「ヨーロッパ」像が相互作用しながら構築される過程として,ヨーロッパ統合の歴史を描き出す。このため本書には,国際政治,外交史,思想史,経済史,社会史など,多様な専門的バックグラウンドをもつ執筆者が戦略的に集められている。
本書の各部・各章は有機的に構成されている。第1部第1章は、既存のヨーロッパ統合史研究を批判的にレビューしつつ,統合史研究のフロンティアを設定している。それをふまえて第2部では,ヨーロッパが歴史的に抱えてきた「遺産」,すなわち戦争(第2章)や,キリスト教および保守主義(第3章),そして植民地(第4章)が,ヨーロッパ統合の歴史に影を落としていることを示す。そして第3部では,これまで見落とされがちだった経営者(第6章)や労組(第7章)のようなアクター,あるいは農業というセクター(第5章)を取り上げつつ,「正史」に回収されない複線的な統合の系譜を明らかにする。最後に第4部では,東方外交(第8章)やヨーロッパ政治協力(第9章)を題材に、最新の外交史料を駆使しながら,1960〜70年代の多極化する世界のなかで模索された「ヨーロッパ」のかたちを浮き彫りにする。こうして,多国,多次元,多領域にまたがる豊かな歴史が立ちあらわれるだろう。
●目次
はじめに
略語一覧
第I部 ポスト「正史」のゆくえ
第1章 ヨーロッパ統合史のフロンティア——EUヒストリオグラフィーの構築に向けて(遠藤 乾)
はじめに
第1節 ミルワードの帝国
第2節 統合史研究は実際にどのように進展してきたのか
第3節 ヨーロッパ統合史はどこに行くのか
おわりに
第II部 ヨーロッパの「暗い遺産」
第2章 戦争のなかの統一「ヨーロッパ」、1940—1945年(宮下雄一郎)
はじめに
第1節 開戦と「ヨーロッパ」
第2節 抵抗運動と「ヨーロッパ」
第3節 戦争末期の「ヨーロッパ」論
おわりに
第3章 黒いヨーロッパ——ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋」主義(板橋拓己)
はじめに——ヨーロッパ統合と近代
第1節 「アーベントラント」とは何か
第2節 戦間期からの連続と断絶
第3節 第二次大戦後の再出発
第4節 アーベントラント運動の組織化
第5節 アーベントラント主義者とヨーロッパ統合
第6節 アーベントラント運動の衰退、そして再生?
おわりに
第4章 ヨーロッパ統合の裏側で——脱植民地化のなかのユーラフリック構想(黒田友哉)
はじめに
第1節 ユーラフリックの前史
第2節 ヨーロッパ統合政策と植民地政策——主権委譲に対する躊躇とフランス連合優先
第3節 ヨーロッパ統合政策と植民地政策の収斂
おわりに —堆積されたユーラフリックと矛盾したヨーロッパ的解決
第III部 統合の複線的系譜学
第5章 もう一つの「正史」——農業統合の系譜とプールヴェール交渉、1948—1954年(川嶋周一)
はじめに
第1節 構想と現実の狭間で——第二次大戦後の農業統合議論の開始
第2節 農業市場統合構想の始動——欧州審議会勧告からマエストラッチ構想へ
第3節 フランス政府による農業統合の着手——フリムラン・プランの生成と提示
第4節 予定されていた失敗——プールヴェール交渉の開始(交渉前半1951—1952年)
第5節 プールヴェール交渉の頓挫——転換から終焉、そして復活へ(交渉後半1952—1954年)
おわりに
第6章 経営者のヨーロッパ統合——1950年代前半における西ドイツの事例から(田中延幸)
はじめに
第1節 西ドイツ鉄鋼業界を取り巻く環境
第2節 シューマン・プランと西ドイツ鉄鋼業界
第3節 西ドイツのヨーロッパ統合構想
おわりに
第7章 日欧貿易摩擦の交渉史
——アクターとしての労働組合・欧州委員会・域外パワー、1958—1978年(鈴木 均)
はじめに
第1節 戦後復興から輸出へ
第2節 潜在的対立から日EC貿易摩擦への発展
第3節 対日強硬姿勢と柔軟姿勢の交錯と、一応の決着
おわりに
第IV部 多極化する世界とヨーロッパの模索
第8章 「全欧」のあいだ——ブラントの東方政策におけるヨーロッパ統合問題(妹尾哲志)
はじめに
第1節 バールの構想における欧州統合問題
第2節 ブラント政権の東方政策とヨーロッパ統合
おわりに
第9章 完成・深化・拡大——ヨーロッパ政治協力の進展と限界、1960—1972年(山本 健)
はじめに
第1節 フーシェ・プランとイギリス
第2節 イギリスの第二次EEC加盟申請と共通農業政策
第3節 ド・ゴールの二度目の「ノン」と他の西ヨーロッパ諸国の反応
第4節 首脳会議の提案とヨーロッパ政治協力
第5節 ハーグ首脳会議と政治協力
第6節 ヨーロッパ政治協力設立交渉とその後
おわりに
あとがき
事項索引
人名索引
執筆者紹介
●著者紹介
遠藤 乾
北海道大学大学院法学研究科法学部・公共政策大学院教授〈国際政治,ヨーロッパ政治〉。北海道大学法学部卒業,ベルギー・カトリック・ルーヴァン大学MA,オックスフォード大学政治学博士号。欧州共同体(EC)委員会「未来工房」専門研究員,ハーヴァード法科大学院エミール・ノエル研究員,イタリア・欧州大学院大学フェルナン・ブローデル上級研究員,パリ政治学院客員教授などを経て現職。著書にThe Presidency of the European Commission Under Jacques Delors: The Politics of Shared Leadership (Macmillan, 1999),編著に『ヨーロッパ統合史』,『原典ヨーロッパ統合史——史料と解説』(名古屋大学出版会,編著,2008年),『グローバル・ガバナンスの歴史と思想』(有斐閣,編著,2010年)など。
板橋 拓己
成蹊大学法学部助教(ヨーロッパ政治史、近現代ドイツ政治史・思想史)。北海道大学法学部卒業、北海道大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター助教を経て、現職。著書に『中欧の模索—ドイツ・ナショナリズムの一系譜』(創文社、2010年)、共著に『ヨーロッパ統合史』『原典ヨーロッパ統合史—史料と解説』(名古屋大学出版会、2008年)、訳書に『中欧論—帝国からEUへ』(ジャック・ル・リデー著、共訳、白水社、2004年)など。
宮下 雄一郎
北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター協力研究員
黒田 友哉
セルジー=ポントワーズ大学大学院歴史学専攻、ジャン・モネEU研究センター共同研究員
川嶋 周一
明治大学政治経済学部准教授
田中 延幸
東京大学大学院経済学研究科経済史専攻博士課程
鈴木 均
新潟県立大学国際地域学部専任講師
妹尾 哲志
同志社大学政策学部講師
山本 健
名古屋商科大学コミュニケーション学部准教授