商品説明

千葉　惠著

判型： A5 上製
頁数： 536
ISBN： 978-4-8329-6837-0
Cコード： C3010
発行日： 2018-02-28

●本書の特徴
　使徒パウロの「ローマ書」を主な考察対象とし、アリストテレス哲学を共約性規準、共通尺度として立て、その言語哲学により意味論的分析を行う。
　それに基づき「ロゴスとエルゴン（理論と実践）」（ローマ書15章18節）の相補性、書簡の無矛盾性、心魂における信の根源性、さらに、現代に至る諸問題への解答を既にパウロが示していたこと等を論じる。
　とりわけ、ローマ書根幹部（3章22節）のラテン語訳から始まった誤訳の指摘により、信仰義認論や予定論等多くの神学、哲学論争に終止符を打ち、和解への基礎を築く。
　本書は、心魂とその信、理性ならびに生死をめぐる歴史の審判を経た古典のテクスト研究であり、愛に結実する肯定的、創造的生について、共約できる確かなものの解明の手がかりとなる。
◎著者によるローマ書の新訳を収載。

●目次

　第三部　神学と哲学の係争点克服を担う信の哲学

序　信の哲学者パウロに基づく哲学と神学の対話の可能性

第５章　理性と信仰──アンセルムスの神の存在論的論証とカントの超越論哲学による挑戦
　第１節　カントにおける無条件的なもの──純粋悟性概念の稼働域
　第２節　理性と信仰をめぐる諸立場の図式的かつ歴史的な分節
　第３節　アンセルムス──信の哲学の先駆
　第４節　カントの存在論的論証批判における現存在のエルゴンのロゴスからの分断
　第５節　神の存在論的論証における人格的要素
　結　論　パウロにおける理性と信仰の総合の可能性
　補論５　可能世界論解釈による形而上学的負荷

第６章　ペラギウス論争と様相分析による恩恵と自由裁量の両立様式
　序　　　アウグスティヌスとペラギウス──罪を犯さない可能性をめぐって
　第１節　原罪とその影響下における恩恵と自由のアポリア
　第２節　可能性が帰属する四種の存在様式とその対応言語網
　第３節　知覚と罪犯の平行論証
　第４節　パウロによる自由裁量論争への調停案
　第５節　神は「過去に犯された罪を赦す」が未来の罪を避けさせないか
　第６節　原罪とその影響の共約的な理解
　結　論
　補論６　論理次元における様相分析と許容様相の射程
　補論７　決定論と自由の両立性──ライプニッツの調停案との相即

第７章　アンセルムス贖罪論における正義と憐れみの両立する唯一の場
　　　　　──司法的正義とより根源的な真っ直ぐの正義
　序　　　『なぜ神は人間に』
　第１節　「理性のみ」による贖罪論の構想
　第２節　アンセルムスの言語論──神と人間の諸語彙の平行性と非対称性
　第３節　司法的な正義
　第４節　神・人──神の義と憐れみが成立する唯一の場
　結　論

第８章　トマス・アクィナスとマルティン・ルターにおける信と愛
　序　　　カトリックとプロテスタントの和解の鍵を握るピスティスの二相
　第１節　パリ学派批判──愛の効力vs. Fides Christi
　第２節　トマスにおける正しい信仰に随伴する愛とロゴス上独立した信仰
　第３節　恩恵と功績
　第４節　トマスとルターにおける「ピスティス」理解の差異
　第５節　恩恵と自由のアンティノミーのひとつの解決と双方の和解
　結　論

第９章　哲学と神学を媒介する信の哲学──ハイデガー実存哲学の形成を手掛かりに
　序　　　理性の限界とその確実性──「信」vs.「死への先駆」
　第１節　現存在の三局構造とその裂け目
　第２節　現存在の存在を開示する実存範疇と開示の時間性における神学的背景
　第３節　神学と哲学──神学と哲学の相補性を媒介する信の哲学
　第４節　死への先駆による存在可能vs. パウロの思考の同型性と内実の非対称
　第５節　信の哲学と現象学
　結　論　存在論的差異をめぐり自律と他律を媒介する信の哲学

附　録　パウロ「ローマ書」の梗概と新訳
　附録１　梗概（記号化および目次付）
　附録２　パウロ「ローマ書」新訳


あとがき
文献目録
パウロ書簡、福音書引用箇所索引
人名索引
事項索引


〔上巻略目次〕
序　文──信の哲学

　第一部　信の哲学を可能にするもの──ロゴスとエルゴンの共鳴和合
序　信の確かさとロゴスの確かさ
第１章　信の哲学の基礎理論──パウロ神学の哲学的分析を可能にする共約的方法
第２章　アリストテレス哲学と様相アプローチ──不可視なロゴス「魂」の探求

　第二部　パウロにおける信の根源性と信と業〈わざ〉ならびに心身（霊肉）の統一理論
序　意味論的分析に基づく新訳がもたらす神の前とひとの前の分節と総合
第３章　パウロにおける信の根源性の論証
第４章　パウロの心身論──心魂の内奥に何が生起するのか




●著者紹介
千葉　惠
1955年宮城県古川市生まれ。
1977年慶応義塾大学法学部政治学科卒。
1977−84年同大学院文学研究科哲学専攻，修士課程を経て博士課程単位取得退学。
1984年同文学部非常勤講師（古典ギリシャ語）。
1986−90年オックスフォード大学人文学科哲学専攻，修士課程を経て博士課程修了，哲学博士（D. Phil. in Philosophy）。
1990年から現在，北海道大学大学院文学研究科助教授を経て教授。

主要業績：Aristotle on Explanation: Demonstrative Science and Scientific Inquiry (Oxford University D. Phil Thesis 1989)，『アリストテレスと形而上学の可能性──弁証術と自然哲学の相補的展開──』（勁草書房 2002），「「ロマ書」におけるパウロの意味論──ピスティスの二相──」月本・大貫編『日本の聖書学　第8号』（ATD･NTD聖書註解刊行会2003），Aristotle on Essence and Defining−phrase in his Dialectic, Definition in Greek Philosophy, ed. D. Charles (OUP, Oxford 2010), Aristotle on Heuristic Inquiry and Demonstration of What It Is, The Oxford Handbook of Aristotle, ed. C. Shields (OUP, Oxford 2012), Uchimura Kanzo on Justification by Faith in His Study of Romans: A Semantic Analysis of Romans 3:19−31, Living for Jesus and Japan: The Social and Theological Thought of Uchimura Kanzo, ed. H. Shibuya and S. Chiba (Eerdmans, Michigan 2013)